坂本から君へ

さかもとのブログ。自分語りとか世間話とか。大阪にいる。

ありがとう…ごめんね…

昔から、北野武監督の映画が好きで、これまで公開された作品はほぼ全て観てきた。
このゴルデンウィーク中にふと思い立って、「HANA-BI」をもう一度観返してみることにした。
北野映画の中でもとりわけ僕が好きなこの作品、劇場公開されたのがもう20年ほど前だということに驚きを覚えながら、新鮮な気持ちで久しぶりに観てみた。
初めて観たのは20代の頃で、当時は過剰な暴力描写や、そこに見え隠れする死生観に目が釘付けになっていたのを覚えている。40代になった今、改めて観てみると、気持ちが持っていかれる箇所がずいぶん異なっていて、とても興味深く感じた。

 

 

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物語のあらましは、とても単純だ。
刑事役のビートたけしが、あちらこちらで揉め事を起こした挙句、銀行強盗を企て成功する。そしてその後、不治の病にかかっている妻と逃避行の旅に出るものの、ヤクザと警察の両方から徐々に追いつめられていき、行き場を失った二人は…というもの。
荒唐無稽なストーリー展開のようだが、後半部分の「夫婦で逃避行する場面」がとても丁寧に描かれていて、観ているこちらの心にじわりと暗い影を落としてくる。
妻役の岸本加世子が難病にかかっているという設定なので全くセリフを話さず、ビートたけしとの会話が全くないままに映画は進んでいく。
俗世間からだんだんと距離をとりながらも、言葉以外のコミュニケーションでしっかりと結びついている夫婦の様子が感じられて、途中から、あぁこれはいびつな形の「夫婦愛」を描いた作品なんだなということに気づかされる。これは若い頃に観た時には気がつかなかったことだ。

 


さらに物語の終盤にさしかかるにつれて、この映画の中の夫婦の姿を、自分と自分の妻に重ねて見るようになってしまっていることに気がついた。
僕たち夫婦も、世間一般から見て、とてもはみ出した場所で生きているように感じているからだ。
二人とも心にやっかいな障害を抱えていて、そのままの状態ではとてもとても生きにくい人生を、それでもどうにかしてやり過ごそうとして常にもがいている。
その、世間から逸脱した生きにくい感じと、映画の中で逃避行を続ける二人が、心情的に重なる部分が多く、さらに感情移入させられる。

 


ラストシーンで、波が打ち寄せる海岸にて二人が肩をならべて海をみつめるところがとても切ない。
そこで岸本加世子がこの作品で唯一の言葉を発するのだが、それが「ありがとう…」と、それに続く「ごめんね…」なのだ。
このセリフの直後の二人の視線のさまよい方が絶妙で、僕はもうここで涙が止まらなくなってしまった。
夫婦って、色々あっても結局はこの言葉に集約されてしまうものなのだ。
「いままでいっしょにいてくれてありがとう」という感謝の気持ちと、「あんまりいい相方じゃなくてごめんね」っていう謝罪の気持ちがないまぜになっているような、そんなシンプルで、奥行きの深い感情にたどりついてしまうのだ。

 


この映画を次に観る時、それは10年後か20年後かはわからないが、その時はどんな違った表情をみせてくれるのだろう。
HANA-BI」はそんなことを考えさせられるとても深い映画だった。

 

 

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