坂本から君へ

さかもとのブログ。自分語りとか世間話とか。大阪にいる。

25年前の自分にスマホを見せてみた

「さっきジョギングしてた時、ずっとそれを耳につけてたけど、いったい何なの?」

彼はそう言いながら僕の手元を覗き込んできた。
「ああ、これか。これで音楽を聴いてたんだよ。」
「この耳栓みたいなやつで?へぇ、こんなので音楽聴けるんだ。これのどこに音楽が入ってるの?」
「このスマホから電波を飛ばして、こっちの耳栓から音楽がなるようになってるんだ。」
スマホって、この薄っぺらい板みたいなの?なるほどここに音楽が入ってるってことか。僕がいつも使ってるウォークマンに近いな。でもカセットとかCDとか入れるところがないけど、どうやって音楽が入ってるの?」
「うーん。それは説明が難しいな。実はこのスマホに音楽が入ってるわけではなくて、音楽自体はデータの形で、ここではないどこか別の場所のコンピュータに置いてあるんだ。そこから音楽データが電波に乗ってこのスマホに飛んでくる。スマホはその受信したデータを再生して、この耳栓にまた電波で飛ばすんだ。」
「へぇ、未来の世界って何でも無線になってるんだね。それにしてもカセットとか持ち歩かなくていいのはすごく便利だわ。」
「いまの僕の部屋にはCDもカセットも1枚も置いてないよ。それでもアルバム1000枚分くらいの音楽が、どこかのコンピュータに置いてあって、いつでも好きな時にそこから取り出して聴けるようになっているんだ。」
僕がそう言うと、彼は目を白黒させて驚いた。

 

 

「なんだかすごい世界になってるのはわかったよ。ところでこのスマホっていう機械は音楽を聴く以外にも色んな事ができそうだね。他にどんなことができるの?」
「そうだな、写真や映像を撮ったりするカメラにもなるよ、これ。」
「すごいなそれ、もう『写ルンです 』 とかいらなくなったんだね。でもこれってどうやって現像するんだろう。」
「現像するっていう行為自体がもうあまり一般的ではなくなってるんだよ。撮った写真はそのままスマホで見たり、世界中の人が見れるように公開したりできるんだ。」
「ちょっとまって、なんでそんなことするの?写真とか、そんなプライベートなものを、なんで赤の他人が見たりできるんだ。わけがわからない。」
僕は苦笑いしながら説明をするはめになる。
「自分が撮った写真を、そういう使い方をする世の中になってるんだ。もちろんそうすることで色んな問題も起こってるよ。友達同士でふざけて撮ったプライベートな写真が、不特定多数の人達の間で出回ってしまって、永遠に回収できなくなってしまったケースなんてたくさんある。結局は、それを使う人間のモラルに全てが委ねられるというわけさ。」
そう伝えると、彼はなんだか困ったような表情をして考え込んでしまった。

 

 

「まあ、今の君にはちょっと難しいかもしれないね。今言ったような音楽や写真以外にも、もっと便利な使い方もできるんだよ。例えば、わからないことや疑問に思うことがあったら、それをスマホに伝えると、いい感じでいろいろと教えてくれるんだよ。試しに『関東 ラーメン屋 おすすめ 』って入れてみるとしよう。ほら、出てきた。 」
「うわ、このあたりのラーメン屋の情報が一杯でてきたわ。地図まで表示されてる。これっていったい誰が教えてくれてるの?神様みたいなものなのかな?」
「はは、違う違う。うーん。これも説明が難しいな。昔は集合知とか言ったりしたんだけど。とにかく世界中の色んな人達が、そこには専門家も素人も混ざってるんだけど、それぞれが思い思いに自分の経験や知識を披露している場所があって、そこから自分の欲しい情報を取ってくることができるようになっているんだよ。もちろん、ウソや紛らわしいものも含まれていて何が本当なのかよくわからなくなってくることもある。でもそこから自分にとって必要な情報を取捨選択していく力が、今の世界では重要だと言われているね。」
「ふーん。やっぱり僕には少し難しいよ。でも、これを使っていると、まるで神様と対話しているような気になってくるよ。全知全能というか、ホントにそんな感じ。」

 

 

そして僕は、彼が一番驚きそうな事実を伝えてみることにした。
「もともとこのスマホっていうのは、君の時代でいう『電話 』 がベースになっているんだ。他人と音声通話するためのデバイスとして生まれたものに、次々と機能追加していって、今のこんな形になったんだよ。」
「え?本当なの?それって。それだったら、もっとボタンとか一杯ついていて、ゴテゴテしてしまいそうな感じがするけどな。こんなシンプルな、手のひらに収まるようなサイズにまで凝縮して、誰もが手にすることができるように普及させているって、すごいことだよね。」
「あぁ、確かにそう言われてみれば、すごいことだよな。」
「僕も早く君の時代にたどり着きたいよ。今から楽しみになってきたな。」

 

 

こういったデバイスだけを見ていると、いい世の中になったよなとは思う。
まだ何も知らない純粋な自分を見ながら、僕はそう思った。