坂本から君へ

さかもとのブログ。自分語りとか世間話とか。大阪にいる。

早すぎたインターネット

もうあまり知っている人なんていないんだろうけど、大昔のインターネット(90年代後半くらい)って、とてもおおらかで牧歌的で、怪しくて楽しかったなーということを、今でもたまに思い出すことがある。

 

今ではなにかのWebサイトを探したりする時には、必ずと言っていいほどグーグルなどの検索エンジンを利用すればたどり着くことができるが、大昔は、自分の興味のあるサイトを探す手段が非常に限られていたように思う。
その頃の僕は、書店で見つけた「裏インターネットの本」というムック本を入手してきて、日々夢中になって読みふけっていた。いや、読みふけっていたというより、その本に紹介されているサイトのアドレスを片っ端からブラウザに叩き込んでは、表示されるサイトを読みふけっていたのだ。
面白そうなサイトを見つけると、そこで紹介されているリンク集に、さらに面白そうなサイトがわんさかと紹介されているものだから、そこからまた別のサイトに移動して、そこのリンク集からまたその先へ、とそんなことを何度も繰り返しながら色々なサイトを次々と見つけていった。今のグーグルが機械的にやっていることを、手動でやっていたわけだ。
当時のヘビーなインターネットユーザーなら誰もが加入していたテレホーダイというサービスを僕も使っていたので、夜の11時になるとネットにつないで、あちこち巡回していたらあっという間に明け方になっているというようなことがよくあった。
よく、覚せい剤などのドラッグを使っていると、時間の感覚が吹っ飛んで一瞬で何時間も経過してしまったような気分になれるというが、僕にとって当時のインターネットはまさにそんな感じだった。危険だった。怪しかった。でも逃れられなかった。


そんな風にして発見したサイトの中では、「ハイパーノイヅ」というホームページが、お笑い系としては秀逸で特に面白かった。
侍魂」などのテキストサイトが話題になる何年も前に、ああいう文字の色やサイズや間隔を工夫して、テキストだけで笑いをとっていくというスタンスを確立させていたサイトが、もうすでに存在していたのである。
「インターネット史上初のHTMLドッキリ企画」と称して、エヴァンゲリオンのオタクを装ったニセサイトを別に作成し、そこに集まってきたコアなオタク達の様子を詳細に観察するなど、今でいう高度な「釣り」をやってみたりと、時代の最先端をいっていたように思う。
dAisukeという名前の無職の若者がやっていたのだが、本人はただ面白そうなことを思いつきとノリで適当にやっていただけなのだろう。けれども、今にして振り返ってみると、その後のインターネットに多大なる影響を与える可能性があったんだけれども、あまりにも早すぎてうまく影響が伝わることがなかったのが残念な気がする。


他には、「全世界征服おまぬけ電波系計画」という、歯科医の方が運営していたホームページが印象に残っている。
色々と怪しげで楽しいコンテンツが揃っていたような気がするけど、残念ながら中身はあまり覚えていない。
では、なぜ印象に残っているかというと、ここの掲示板の雰囲気がとてもよくて、常連さん達の書き込みを毎日眺めていたからだ。
ある時、その掲示板に、僕がやっていたホームページのURLが貼られて紹介されているのを目にした時は思わず笑ってしまった。インターネットって広い世界なのに、ニッチな趣味嗜好で村の寄り合いみたいな世界を構築していくと、必然的に似た者同士でひかれあうものなんだなと思った。
普段、他人の掲示板に書き込みなど滅多にしない僕も、それからその掲示板にだけは気軽に書き込んだりするようになっていった。

 

あと、これは個人ホームページではないのだが、「この指とまれ」というサービスがあった。
インターネット上で学生時代の同窓生をみつけましょうというコンセプトのサイトで、使い方は自分の卒業した学校と卒業年度、実名とメールアドレス、あとは、一言自己紹介みたいなものを登録しておくと、それらがネット上に公開され、それを見た同窓生から連絡がくるかもしれないというものだった。
今にして思えばネット上にそんなものを公開状態で置いておくなんて正気の沙汰ではないのだが、そこはおおらかな時代だったのだと思う。今では考えられないことを平気でやっていた。
僕も登録してみたら、一度だけ高校時代の友達からメールが来たことがあったが、あまり関わりあいになりたくない相手だったので、無視した。人生初の既読無視である。こんな風に手軽に昔の友達がみつかったり、その事実を華麗にスルーできたりと、ネットってやっぱり便利だなと思わせられる出来事だった。
今ググッてみたのだが、このサービスは今も存在していて、しかもセキュリティを強化した会員制サイトになっていた。そういえば一時期、暴力団フロント企業が運営しているとか黒い噂が流れたこともあったような気がするのだが、いったいどうなっているんだろうか。

 

他にも、サービス系では「あやしいわーるど」という掲示板が懐かしい。
「しば」という人物が運営していた、アングラ的な話題を扱う掲示板だったのだが、とにかく怪しげな話題はここに目を通しておけばオッケーといった感じだった。当時の僕は、実際に書き込んだりするのはちょっと敷居が高いような気がしたので、ひたすら眺めていただけだった。
度々荒らされてその度に移転を繰り返していたような気もするけど、最後に「マグマニア」という別のコンセプトの掲示板を始めて、それもすぐに閉鎖して、その後の足取りはわからない。
あやしいわーるど」の流れをくむ派生掲示板が多数できていたようだが、今はもう残っているものは一つもない。

 

あれから20年近い月日が流れ、個人ホームページの代わりにブログを見るようになり、昔の友だちとはフェイスブックでつながり、怪しげな情報は2ちゃんねるから取得するようになった。けれども20年前と今とで、やっていることは基本的には変わっていないような気がする。
これからどんどん時代がながれて、新たなコンテンツやサービスが登場してきても、20年前のあのサイト郡の雰囲気はいつまでも忘れることなく僕の記憶に残り続けていると思う。

僕にとって、インターネットに触れる時に感じるワクワク感の原体験であるからだ。