さかブロ

さかもとのブログ。自分語りとか世間話とか。大阪にいる。

お金を稼ぐということ

僕は20代の前半から30代の半ばまでずっと、とあるIT系のベンダーに勤務していた。

およそ15年ほど、クライアントの会社にSEとして常駐し、お客さんからの依頼に応える形で社内システムのメンテナンスをやっていた。
そこでの僕は、毎日毎日、空から降ってくる仕事をひたすらこなせば、やった分だけ給与という形でお金が貰えた。いつしかそれが当たり前のことになってしまっていて、毎月の給与を手にすることになんの感慨も得られなくなってしまっていた。
収入面ではとても安定していたし、何の不満もなかったのだが、その代わりになにか致命的な物足りなさを感じていた。
このまま自分は、クライアント企業の社内システムを維持していく立場のままで、一生を終えることになるのだろうか。
つまりは、よその会社が存続していくためのお手伝いをしていくだけの人生なのかと思うと、とてつもない虚無感が胸に押し寄せてくるのだ。
もっとこう、自分の力で商売を回すという経験がしてみたかった。ものすごく単純な言い方をすれば、自分の力でお金を稼いでみたかったのだ。
そう思った僕は、いつまでもベンダー側にいるのではなく、クライアント企業のような事業会社へ転職するべきだと考えるようになり、そういう会社を求めて転職することを決意する。

 

 

その時の僕はすでに30代の後半になっていたにも関わらず、運良く潜り込むことのできた会社があった。
全国の百貨店に店舗を展開している、名前を出せばたいていの人が知っている知名度のある会社だった。それですっかり安心して転職したつもりだったのだが、入ってみて驚愕した。
電話会社から毎月のように、口座の残高不足で電話料金の引き落としができなかったと苦情が入ってきたり、税務署から滞納している税金の督促の電話がしょっちゅうかかってきたりと、その実態は、毎月の資金繰りにあえいでいる中小企業そのものだった。
ベンダー勤務時代には、電話代や税金を会社が支払っているという意識など全くなかったのだが、その会社に転職してからというもの、そういうお金にまつわることの一つ一つがリアルに肌で感じられるようになった。
全国の店舗から上がってくる売上や、従業員に支払う給与など、色んな種類のお金が実際に会社の中を循環しており、もしもその流れが止まってしまうことがあるとしたら、その瞬間に会社は死を迎えてしまうということに気がつく。

 

 

ある時、僕が会社でデスクに向かって仕事をしていると、社長がどこからともなく近づいてきて僕にこうささやいた。
「さかもと君、今月の給与のことやねんけど、ちょっと待ってもらうことってできへんか?」
ちょうど月末で、運営している全ての店舗の営業成績を締める作業をしている時だった。
「今日は月末やろ?今日中にあと2件ほど成約が入ってくれたら、さかもと君の給料なんとかできるねんけどな…」
その時、僕はわかってしまった。お金を稼ぐということは、そういうことなのだ。
今自分のやっている仕事の成果が、ダイレクトに自分の給与に影響してくる。
もし成果が出せなければ、本当になにも手に入れることができない。
泣き言を言っても、 たとえ野垂れ死んでしまうことになったとしても、誰も助けの手を差し伸べてくれることなどないのだ。

 

 

幸い、その日の営業が終わる頃になって、滑り込みで2件の成約が出たと店舗から連絡があった。
「よかった。これでさかもと君の今月の給与出せるわ。ちょっと飲みに行こか。」
その後、安い居酒屋に連れて行かれ、そこで社長と飲みながら話をしている時に、こういうことは日常的に起こっている、つまりは給与の遅配がめずらしいことではないということを知らされた。
「もちろん私なんか、いつまで待たされても問題ないよ。」
そうつぶやく社長を見ていて、もしかするとこの人は無給で働いている時期もあるのではないかという疑いを持ってしまった。
それまで時折、この社長が周囲の社員に対して常軌を逸したキレ方をしている姿を目撃することがあったのだが、そういう行動もうなずけるような気がした。会社の収益と自分の懐が、正に直結しているからこそ、そこまで本気で必死にアツくなれるのだ。
お金を稼ぐとは、人間性まで変えてしまうという意味で、とても恐ろしいことなのかもしれない。

 

 

その会社には2年ほど勤めた後、色々あって結局辞めることになった。
辞めた一番の理由は、そういうお金儲けにまつわる諸々の重圧に耐えられなくなってしまったからだった。
今の僕は、昔のITベンダーに戻り、ぬるい日常を送っているのだが、時折あの頃感じていたヒリヒリと焼け付くような感じを思い出して懐かしくなることがある。
お金を稼ぐとはどういうことなのか。それをいつまでも忘れてはいけないと思って、今の僕は副業に手を出したりしているような気がする。